三菱商事の決算が発表されました。本日は三菱商事の決算短信をもとに今後の株価見通しや配当金の推移についてお伝えしていきたいと思います。
三菱商事は総合商社の王者として長年君臨してきましたが、近年は時価総額で伊藤忠商事に追い抜かされる局面が多くなっています。
11月1日に2024年9月末の決算を発表しましたが、素晴らしいい数値だったのに株価は3%近く下落しました。この原因についてお伝えしていきます。
併せて、多くの投資家が注目しているであろう配当金の行末についても分析していきます。
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決算速報の前に現在の三菱商事の事業ポートフォリオを確認
2024年9月期の最新決算の分析を行う前に現在の三菱商事の事業ポートフォリオについて確認しておきたいと思います。
商社というと貿易で主たる利益を上げていると勘違いしている方がいらっしゃるかと思います。
しかし、21世紀に入ってから総合商社各社は投資を行い、投資収益を主な収益源としています。情報の非対称性が小さくなり貿易で利幅を取れる時代ではなくなったのです。
特に三菱商事や三井物産といった財閥系の商社は以前から投資していた権益から得られるリターンで大きな純利益を積み上げていきました。
最新の通期決算である2024年3月期時点での純利益9640億円の構成は以下の通りとなっています。
天然ガスと金属資源だけで純利益の56%も占めており、依然として資源の利益に頼った構成になっていることがわかります。
天然ガスや石炭や銅などの市況に大きく業績が左右される状況となっています。当然、為替の影響も受けます。
三菱商事は円安、原油高、天然ガス高、銅価格高、石炭高によって業績が上昇するような利益構造となっています。
まるでコモディティのETFを持っているような感覚ですね。
2024年9月期決算の結果を速報分析!
まずは一番肝心な純利益の推移からみていきましょう。以下は三菱商事の四半期決算の推移です。
四半期決算は季節性があるので前年同期比と比べる必要があります。三菱商事は投資しているエネルギー関連企業の配当金の影響で6月決算の純利益が増大する傾向にあります。
以下を見ていただければわかる通り、今回発表された四半期純利益は9月末決算は前年9月末決算、前々年9月末決算に比べて高い数値となっています。
三菱商事の当期純利益の推移 | |
2019/09 | 81,120 |
2019/12 | 130,949 |
2020/03 | 162,045 |
2020/06 | 36,661 |
2020/09 | 50,026 |
2020/12 | 82,459 |
2021/03 | 3,404 |
2021/06 | 187,572 |
2021/09 | 172,988 |
2021/12 | 284,208 |
2022/03 | 292,761 |
2022/06 | 533,951 |
2022/09 | 186,055 |
2022/12 | 235,753 |
2023/03 | 224,935 |
2023/06 | 317,721 |
2023/09 | 148,355 |
2023/12 | 230,538 |
2024/03 | 267,420 |
2024/06 | 354,359 |
2024/09 | 263,696 |
セグメント毎の1年前との業績の比較は以下となります。以下は4月から9月までの半期の成績です。
2023年6月期 | 2024年6月期 | |
地球環境エネルギー | 898 | 946 |
マテリアルソリューション | 437 | 369 |
金属資源 | 1341 | 1957 |
社会インフラ | 149 | 1 |
モビリティ | 656 | 550 |
食品産業 | 251 | 604 |
S.L.C. | 690 | 1563 |
電力ソリューション | 83 | -66 |
その他 | 156 | 256 |
金属資源の純利益が大きく伸びて、昨年からの増加要因となっていますね。
これは後欧州原料炭事業の炭鉱を売却したことによる売却益が寄与しているとのことです。しかし、今後の継続的な収益源が減少してしまうのは懸念されるところですね。
ちなみに2024年5月時点の通期の予想9500億円は、現在2024年11月時点では変化はありませんでした。
前年通気の純利益が9640億円であったことを考えると、2Q時点で昨年2Qを上回っているのはポジティブですね。
ただ、先ほどお伝えした通り売却益という一過性の利益なので一概に喜ぶことはできません。
また、市況が想定していたよりも三菱商事の想定を上回っていたことも有利に働いていました。
決算発表後になぜ株価が下がった?
皆さんが気になっているのは決算発表後になぜ株価が下がったのかという点ではないでしょうか?
決算発表後に株価は3%程度下落しています。
この理由は2つ考えられます。1つ目は次の項目でお伝えする通り、今後景気後退懸念が膨らんでいるからです。
株価は1年以上先を見て動きます。たとえ、今年の利益目標を達成したとしても、来年以降の見通しが示されない限りは利益確定売りが出やすくなります。
2点目も後述する配当金を累進的に出すことが難しくなってきていることが挙げられます。
来年度の利益が景気後退によって下がると現在の水準の配当金をだせなくなるので、期待が下がってきている時期となっているのです。
つまり、決算を逃げ場として考えていた投資家が多かったということが原因といえるでしょう。
三菱商事の今後の業績と株価の見通しは?
それでは今後の業績と株価の見通しについてお伝えしていきます。
景気後退による業績悪化が懸念される
さきほどお伝えした通り三菱商事の業績は以下に影響を受けます。
- 為替(円安になれば利益、円高になれば損失)
- 銅地金
- 原料炭
特に銅と原料炭の価格動向は大きな影響を与えます。
以下は原料炭価格の推移です。世界の景気、特に中国の景気に大きな影響を受けることがわかります。
中国は不動産の債務が重しとなり、長期低迷の様相を呈しています。日本のバブル崩壊をなぞる気配が漂っています。
中国政府によるテコ入れも期待されましたが、想像された規模よりはるかに小さかったため一時盛り上がった中国株も失墜しています。
しばらく厳しい市況が続きそうです。世界経済が景気後退に陥ると価格は底抜けしていきます。
次に以下は銅市況です。全世界の株式市場の動きと似ていることに気づいた方が多いのではないでしょうか。
銅は景気の先行指標と言われていますからね。既に下落に転じていて景気の先行きが暗い可能性を示唆しています。
そして、今後の景気は暗いことが想定されています。2021年末から続く高インフレと高金利によって経済が疲弊しているからです。
既に失業率は増加しており景気後退直近となっています。それを見越して米国の中央銀行であるFRBは9月に利下げを実施しました。
そして、歴史的に最初の利下げが実施されてから数ヶ月後に景気後退入りとなり株価が大きく下落していきました。
つまり、景気後退と株価市場の下落は目前まで迫っており、銅価格の先行きの見通しも暗いという結果になります。
また、景気後退となると日米金利差も縮小するので円高方向に修正されます。
つまり、今後は三菱商事にとって市況が不利に働く状況が想定される局面になってきているのです。
業績見通しは明るくないということになります。
今後の株価の見通しは?株価は買い時?売り時?
業績の見通しが暗いので当然株価の見通しも明るくはありません。
以下は2019年からの三菱商事の株価推移です。パンデミック後の金融緩和バブル相場に加えてバフェットが投資をしたことで急激に上昇していきました。
2022年は株式市場全体は下落しましたが、原油をはじめとした資源高と円安により下落を回避して再び2024年の前半まで上昇相場を謳歌しました。
しかし、2024年の後半以降は2022年の下落を回避した要因が今度は逆の働きをしていきます。
2022年は株価下落を市況と為替で支えましたが、2024年後半からは株価下落に加えて市況悪化と円高によって下落が加速してしまいます。
急激な株価の下落も覚悟しておいた方がよいでしょう。以下は相場の影響をうけず安定した利回りが狙えるファンドについて纏めていますので参考にしていただければと思います。
配当金は今後どうなる?増配はできる?
三菱商事に投資している方の中には配当金を目的としている方も多いかと思います。
以下は三菱商事の配当金の推移ですが右肩上がりに上昇しています。
今後、このレベルの水準を維持することが可能なのかという点が重要になってきます。
この点を確認するために中期経営計画を確認してみましょう。中期経営計画では以下の通り総還元性向を30%-40%としながらも累進配当を掲げています。
つまり、配当金は毎年増額する目標を掲げながら、余った分は自社株買いで株主還元を行うということですね。
では概算していきましょう。今年の通期の純利益が1兆円だとします。保守的にこのうちの30%〜40%つまり4000億円を株主還元に回すとします。
今年の配当金予想100円に総株数40.7億円を掛け合わせると4000億円となります。総還元性向の上限の40%である4000億円で考えてもギリギリですね。
今年の利益水準だと配当金100円がマックスになります。ただ、来年はさきほどお伝えした通り景気後退が顕在化することで利益水準は低くなります。
この点を加味すると来年は減配せざるを得ない状況となるか、今年の期末配当を抑えて75円程度に抑える可能性もあります。
仮に100円の配当がでたとしても現在の株価3000円ベースでは配当利回りは3.3%となります。
特段高配当というわけでもないので、配当利回りが株価を下支えするというレベルでいうと2000円程度までの下落は覚悟する必要があります。
配当金が100円ならば株価が2000円でも丁度配当利回りは5%程度ですからね。更に減配がみえると配当金による株価の下支えは期待できにくくなります。
まとめ
今回のポイントをまとめると以下となります。
ポイント
- 依然として三菱商事の収益の中心は資源分野
- 市況に助けられて利益を伸ばしてきた
- 今後は景気後退が見えてきており市況の悪化を覚悟する必要がある
- 純利益と株価ともに見通しは明るくない
- 今年の配当金100円は中期経営計画の還元性向から考えてギリギリの水準
- 配当利回りが下支えする水準を考えるなら2000円程度までの下落は覚悟する必要がある